なんで一緒に住んでるの? の核心部分。
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警察署内部の大きな部屋で、何人かの偉いんだろうなって人と、所長と、ボクで、テーブルを囲んでいる。圧迫感がすごい。
「関係者を連れてこい、と伝えた筈だが」と、偉そうな人。
所長はひとつ頷いて「しかし、この人だかり。下手に人数を連れてきても危険だろうと判断した。事実は自分たちだけでも充分解っている事、確認をするだけなら何も問題無い。」そう言って揺らがない。その姿が格好良くて、安心する。
渋面を作る警察の人も、仕方がないという風にため息を吐いて、肩を竦めてからは早かった。ボク達が持ってきた彼が起した殺人の、確認が出来るだけの件数と証拠、それから周りの評判。彼をこのままもう一度外に出して良いのか、という話し合いに至るまで、そんなに時間はかからなかった。所長は話を聞きながら、自分の意見と、事実とを淡々と述べていく。私情をなるべく挟まない様に、気をつけている様にも見えた。
話を聞いている限りでは、警察としては彼を外には出したくない という事らしい。それには頷くしかない。彼は、この街を騒がせた連続殺人の犯人で、どうしようもないサイコキラーだ。目を離したら次の事件が起きかねない。まったくもってその通り。
しかし、奇跡が起こってしまった以上、彼にこの罪科は問えない。釈放をしなければ、警察が法に背いた事になってしまう。秘密裏に殺すにしても、大衆の前で起こってしまったこの事実を、揉み消す訳にもいかず、何か新しい、彼を吊るす罪科でも存在しないかと躍起になって探しているが、そもそもの罪が多いことと重いことで、それすら新たには見つからない。どうしたものかと頭を抱えている。まぁ、要約するとそういう事らしい。
話が堂々巡りを始めようとしているのを確認してから、そっと手を上げる。
「彼を外に出してしまうのは、どうでしょうか」こちらに視線が集まる。大半は信じられない物を見る目で、あまりにも凝視されるものだから、少しぞくりとした。
「ご、ごめんなさい。でもお話を聞く限りでは、いっそ外に出してしまった方が良い様に聞こえて……」少し弱くそう主張すると、恰幅の良い人が「何を馬鹿な事を」と呆れた声で返してきた。
「そうして次の被害者が出たらどうするつもりだね?そもそも、君はあの快楽殺人者に生きている価値があるとでも?」
その言葉には、困ったように眉根を寄せて、小さく弱い口調で反論をする。
「つ、次の被害者が出ない様に、監視をつける等の管理を対策すれば……あるいは……」
「誰がその管理を引き受けるんだね?」
一般の人では、恐らく彼が強行に及んだ時、止められない。警察には銃もあるが、24時間監視は出来ない。そして厄介な事に、彼は数発の弾丸では、止まらない。
しばらく、考える様に間を置いて、顔を伏せる。その様子にやれやれと首を振る数人を確認した上で、やや声を張る。
「ボクが」
再度、自分に集まった視線全部を正面から受け止めて、強く、揺らがない声で先を続ける。
「必要ならボクが引き受けます。ボクならいざという時、仲間の手を借りやすいし、足止めくらいなら簡単に出来る。彼とは友人だったから、気心も他人よりは知っている」
しかし、と口を挟もうとした誰かに目を移して、有無を言わさず言葉を続ける。
「彼を外に出す意味は、ちゃんと有るんです。彼は、医者として優秀だった。そして仕事には手を抜かなかったし、裏切らなかった。彼が奪った命は多い。けれど救った命もまた、多い。」
資料の中に入っていた彼が担当していた大きな手術の情報を掲示する。
「これは、他の病院でたらい回しにされてここに来た患者でした。でも、彼は手術に成功した。この患者も、他にある資料に載っている物もそうです。それだけじゃない。緊急外来、唐突な発作、容態の急変、彼にしか成功しえない手術は山ほどあった。ボクは医者としての彼に救われた人が多い事を知っている。それが、彼の犯した罪を軽くする物では無いと知っていても、今後彼が生きていたとしたら、救われるであろう命が多い事を主張する理由にはなる。」
怯んだ様に黙った警察の面々を真剣な顔で見返して、ゆっくりと、浸透させるように次の手を紡ぐ。
「彼は頭のおかしいキチガイだ。それは事実です。それでも、奇跡によって生かされてしまった彼を、使うメリットはあるんです。」
横で聞いていた所長が吐いたため息を、今回ばかりは聞かないことにした。